子どもから大人まで幅広い年齢の方が野球を楽しんでいますが、投手の中には野球肩のために投球動作が困難となるケースもあります。
本記事では野球肩の種類や症状、治し方、予防方法について解説します。
野球肩を早く改善し、競技に復帰したい方や療法を探している治療家の方はぜひ参考にしてください。
野球肩とは
野球肩は投球動作に伴い、肩の痛みを生じる疾患の総称です。
野球だけでなく、やり投げやハンドボールなどの競技で発症するケースもあります。
野球肩はスポーツ障害の一種で、捻挫や突き指のように一瞬の外力で受傷するのではなく、局所への継続的な負荷の結果として発症するケースがほとんどです。
そのため、いつ野球肩を発症したのか分からないという方も少なくありません。
野球肩の種類と症状
野球肩には主に以下の5種類があります。
- インピンジメント症候群
- リトルリーグショルダー
- 腱板損傷
- ルーズショルダー
- 肩甲上腕神経損傷
5種類の野球肩および症状について詳しく解説します。
インピンジメント症候群
野球肩の中でも多くの症例を認めるのがインピンジメント症候群です。
投球動作に伴い上腕骨の骨頭が烏口肩峰靭帯や肩峰とぶつかって、滑液包に炎症を起こすことで発症します。
症状の特徴は、ある程度腕をあげると引っかかりが生じ、それ以上動かせなくなることです。
野球だけでなくバドミントンのスマッシュや、バレーボールのスパイクなどで発症することもあります。
リトルリーグショルダー(上腕骨骨端線離開)
リトルリーグショルダーは小学校の高学年の児童や中学生に多く見られる野球肩です。
成長期の児童や生徒は骨が伸びるための骨端線(こったんせん)が残っています。
投球動作に伴う牽引および回旋が加わると、骨端線に損傷が生じ、リトルリーグショルダーを発症しやすくなります。
つまり、リトルリーグショルダーの主な症状は、投球動作に伴う肩の痛みです。
痛みが出るタイミングはまちまちで、投球時に痛みを生じることもあれば、運動後に症状が出ることもあります。
初期の段階では運動時や運動後に痛みが出るだけですが、悪化すると日常の動作で症状が出ることもあります。
また腕の付け根の外側に圧痛(押すと痛みがでること)を認める点もリトルリーグショルダーの特徴です。
腱板損傷
腱板(けんばん)は、棘上筋(きょくじょうきん)・棘下筋(きょくかきん)・肩甲下筋・小円筋の4つの筋肉が集合した筋腱のことです。
腱板は烏口肩峰靭帯(うこうけんぽうじんたい)の下を通り、上腕骨に付着しています。
投球動作に伴い、腱板と烏口肩峰靭帯が擦れ合うことで、腱板損傷の発症リスクが高くなります。
腱板損傷の特徴的な症状は、腕の上げ下げで痛みが生じたり、夜間の痛みで目が覚めてしまうような睡眠障害につながってしまうことです。
また、腕をあげる途中で肩の痛みを生じますが、上まであげると痛みが引く点も特徴です。
ルーズショルダー(動揺肩・動揺性肩関節症)
ルーズショルダーは肩関節不安定症とも呼ばれており、通常の可動域以上に肩関節が動くスポーツ障害の一種です。
運動時の肩の痛みだけでなく、肩が抜けるような不安定感や脱力感も見られます。
肩関節の脱臼が原因でルーズショルダーになるケースもあります。
肩甲上腕神経損傷
肩甲上腕神経が投球動作に伴い腕を振り下ろす動作時に引っ張られたり、締め付けられたりすることで損傷し、肩の後方外側に痛みや痺れ・疲労感が出やすくなります。
野球以外に、テニスのスマッシュやバレーボールのサーブ、槍投げなどの動作でも起きるスポーツ障害です。
また、肩甲上腕神経が支配する棘下筋の過緊張により発症することもあります。
肩全体の疲労感を覚えたり、肩甲骨が盛り上がったように見える点も特徴です。
野球肩の原因
野球肩の原因としては主に以下の7つがあげられます。
- オーバーユース
- 肩に負担がかかる投球フォーム
- 筋肉や関節の硬さ
- 外傷
- 遺伝
- 筋力不足
- 疲労の蓄積
野球肩の7つの原因について解説します。
オーバーユース
野球肩の原因の1つがオーバーユース(使い過ぎ)です。
投球動作(ワインドアップ期、コッキング期、加速期、リリース減速期、フォロースルー期)を繰り返すと肩関節への負担が蓄積し、限界を超えると野球肩を発症します。
日本でも肩は消耗品との考え方が主流となってきており、少年野球や高校野球でも投球制限のルールが設けられるようになってきています。
肩に負担がかかる投球フォーム
肩に負担がかかる投球フォームも、野球肩の原因の1つです。
テイクバックのときに肘を伸ばしたままにする「アーム式」の場合、肩にかかる負担が大きいため野球肩の発症リスクが高くなります。
近年メジャーリーグで主流となっているショートアームには、テイクバックを小さくすることで、肩にかかる負担を少なくする目的があります。
筋肉や関節の硬さ
筋肉や関節の硬さも、野球肩の発症リスクを高める原因の1つです。
例えば腱板を構成する筋肉が硬いと、上腕骨にかかる牽引力が強くなるため、野球肩を発症しやすくなります。
また、股関節が硬いと体幹がスムーズに回旋しないため、肩関節への負担が増加します。
外傷
外傷も野球肩の原因の1つです。
野球肩を引き起こす外傷としては、関節唇(かんせつしん)損傷や肩関節脱臼、骨折などがあげられます。
外傷にともなう野球肩の場合は、投球動作の直後に肩を押さえてうずくまるなどする点が特徴です。
遺伝
野球肩の原因としては遺伝も挙げられます。
特にルーズショルダーに関しては、遺伝的な要因も深く関わっているのではないかと考えられています。
筋力不足
筋力不足も野球肩の原因の1つです。
肩や肩甲骨まわりの筋力が弱いと、投球の際に関節へと大きな負担がかかり、野球肩の発症リスクが高くなります。
また、上半身だけでなく下半身の筋力不足により野球肩の発症リスクを高めるケースもあるため注意が必要です。
下半身が弱いといわゆる「手投げ」になるため、肩関節に大きな負担がかかります。
疲労の蓄積
疲労の蓄積も野球肩の発症リスクを高めます。
十分な休養をとらずに練習を続けると、硬くなった筋肉により関節が引っ張られ、結果として野球肩を発症しやすくなるのです。
投球動作別に見た野球肩発症のリスク
野球の投球動作は主に次の5つの動作に分類されます。
- ワインドアップ期
- コッキング期
- 加速期
- リリース期
- フォロースルー期
投球動作別の野球肩の発症リスクを解説します。
ワインドアップ期
ワインドアップ期は、軸足に体重を乗せ投球の準備をする段階です。
ワインドアップ期には肩に負担がかからないため、野球肩の発症リスクはありません。
コッキング期
コッキング期は軸足に体重を乗せ、踏み出した足に体重を乗せるまでの時期です。
コッキング期には肩関節が外転および外旋するため、棘上筋や棘下筋、小円筋に大きな負担がかかります。
コッキング期の動作により発症リスクを増す野球肩は、肩甲上腕神経損傷や腱板損傷、関節唇損傷などです。
加速期
投球動作の加速期は、手からボールが離れるまでの時期です。
肩関節が外旋から内旋へと大きく動くため、広背筋や大胸筋、肩甲下筋などに大きな負担がかかります。
加速期の動作にブレや不安定感があると、腱板損傷やインピンジメント症候群、関節唇損傷などを発症しやすくなります。
リリース期
リリース期はボールが手から離れる瞬間を指します。
肩関節の内旋に伴い前腕が大きく回内するため、肩甲骨周囲の筋肉に大きな負担がかかります。
リリース期の動作で発症リスクが高くなるのは、肩甲上腕神経損傷です。
フォロースルー期
フォロースルー期はボールを投げてから、投球動作を終えるまでの時期です。
肩甲骨が外転し上腕二頭筋や上腕三頭筋、腱板、関節包などに大きな負担がかかります。
フォロースルー期の動作を繰り返した場合、腱板損傷や関節唇損傷、インピンジメント症候群などの発症リスクが高くなります。
野球肩の治し方
整形外科や整骨院・接骨院では、以下の治療や施術により野球肩の改善を図ります。
- 痛み止め
- 物理療法
- テーピング
- 筋力トレーニング
- 手技療法
野球肩の治し方について解説します。
痛み止め
野球肩の痛みが強い場合には、痛み止め(消炎鎮痛剤)を利用する事が一般的です。
野球肩の痛みが強い場合には、痛み止め(消炎鎮痛剤)を利用する事が一般的です。
物理療法
レーザーやハイボルト、温熱療法、アイシングなど症状に応じて物理療法が行われます。
テーピング
肩関節を安定させる目的や、筋肉のサポート目的でテーピングを行う事があります。
筋力トレーニング
筋力トレーニングで方や肩甲骨まわりの筋肉を強化し、肩関節に掛かる負担を軽減します。
手技療法
整骨院・接骨院などでは手技により肩や肩甲骨まわりの筋肉を緩め、関節にかかる負担を減らす施術がおこなわれます。
活法・妙見活法による野球肩の治療アプローチ
活法とは日本古来の手技療法の1つです。
妙見活法はその中でも、古い歴史があります。
妙見活法の特徴の一つに、痛みの出る体勢で治療をすることがあります。
痛みの出る部位を身体の他の部位に補ってもらう事で、痛みや負担を素早く取り除く考え方です。
治療事例
妙見活法整体による治療事例を紹介します。
報告① 10代男性(大学野球部所属) 神奈川県相模原市「ひかり接骨院」
主訴
- ピッチング動作で右肩に痛み有り
- 整形外科で野球肩と診断されリハビリを続けるが、変化無し
- きちんと治せる治療院を複数探し、当院に来院
施術
経過
1回の施術でピッチング動作の痛みも消滅。
その後の練習も問題なく参加しているとの報告を後日受ける。
報告② 10代男性(高校野球部所属) 岐阜県瑞浪市「龍門整体療法院」
主訴
- ピッチング動作にて肩に痛み発生
- オーバーユース(使いすぎ)、疲労の蓄積、肩に負担のかかるフォームが原因と思われる
- 三週間後に大会を控えているので、とにかく出場できるように治してほしい
施術
- 痛みの発生する実際の投球フォームにて、身体の復旧する力を縦横無尽に高める「四角八方療法」を体幹部に施し痛みがほぼ消失
- 球を投げる瞬間で腕に抵抗をかけると少々の痛みが出るので、抵抗をかけた体勢でもう一度「四角八方療法」で残った痛みも完全に消滅
- 一週間程度全力投球を控えてもらい、様子を見ながら大会に合わせ強度を上げる方向で指導
経過
2度目の来院時(大会後)に、無事問題なく出場投球できたとの報告を受ける。
メンテナンスとして全身調整をして終了。
この他、妙見活法整体会員の臨床報告を下記でまとめています。
妙見活法での治療をご希望の方、ご自身が治療技術を学びたい方は、下記より正伝妙見活法協会までお問い合わせ下さい。
野球肩の予防方法
野球肩を予防するためには、日常的に以下の点に取り組むことが重要です。
- 投球前のウォーミングアップ
- 投球後のストレッチ
- 入浴と睡眠による疲労回復
- 正しい投球フォームの取得
野球肩の予防法について解説します。
投球前のウォーミングアップ
野球肩を予防するためには、投球前入念なウォーミングアップを行うことが欠かせません。
ダイナミックストレッチやジョギングなどを行い、身体を温めながら関節の可動域を高めましょう。
投球後のストレッチ
野球肩を予防するためには、投球後のストレッチも重要です。
肩まわりのストレッチにより血行を促進し、回復を早めることが期待できます。
ストレッチは痛みの出ない範囲で、気持ちよく行うことがポイントです。
入浴と睡眠による疲労回復
入浴と睡眠による疲労回復も、野球肩の予防につながります。
翌日に疲れを残さないよう、リラックスした状態で睡眠に入るよう心がけましょう。
正しい投球フォームの取得
野球肩を予防するためには、正しい投球フォームの取得も重要です。
特に自己流で投球している方は注意が必要です。
経験者の指導を受け、肩に負担がかからないフォームを身につけましょう。
野球肩の原因を知り、根本から改善に導く
野球肩の多くはオーバーユースにより起こりますが、様々な原因が絡み合った結果として発症した場合、症状の回復を遅らせることがあります。
自分の野球肩がなぜ起こっているのかを確認し、原因を根本から取り除くことがおすすめです。
また、治療家の方で今回の事例の様な野球肩の治療テクニックを学びたい方、
「妙見活法」に興味がある方は、セミナーやDVDによる学習もサポートしております。
無料サンプル動画などもご用意しておりますので、気になる方はお気軽にお問い合わせください。